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「柑橘系の、甘いやつありますか?」
中々注文の出来ない私に彼が焦れてるのが分かって、なんとか放った言葉はそれだった。
なけなしの知識でかっこよくカクテルの名前を言おうとしたけれど、普段、家でもあまりお酒は飲まないのでそれすら出てこなかったのだ。
けれどそんな私を気にするでもなく彼は頷いてくれた。
彼の手にある銀色のものを見て『あれって確かシェイカーって言うんだっけ』とどこかで見た知識を思い出しては不安にかられる。
佐伯さんはこの店で働いてほしいと言っていた。
けれどお酒の名前はおろか、この店にあるほとんどのものが生で見たのは初めてで、
もちろん触った事すらない名前も分からないものばかりだ。
そもそもどうしてお酒を振るんだろうか。
炭酸だって、お酒だって、缶だったら振ると吹き出てきてしまうので御法度のはずだ。
「どうぞ」
そんな事を思いながら見ていると、目の前にグラスを差し出された。
カクテル、というと逆三角のグラスを想像していたけれど、
丸みのある可愛いグラスに赤いカクテル。
グラスの縁にはオレンジが添えられている。
「・・・おいしい」
一口飲んでみると、オレンジとワインの様な香り。
甘いけれど嫌みではなく、すっきりもしていていくらでも飲めてしまいそうだった。
改めて目の前の彼を見上げてみる。
慣れた手つきでグラスをピカピカに拭いていく姿は様になっているが、目線が行ったのはそこではない。
先ほどからチラチラと目がいってしまっている首もと。
ボタンを3つ程開けられたシャツの合間からチラチラ見えるそこである。
正直目の毒だ。
けれど目が幸せだ。
昔から男性の首元が大好きだった。
おそらくフェチってやつだと思う。
首もと、というか首から肩にかけて、つまり鎖骨。
ボタンは開いていてもピッチリとしたベストが開くことを許さないのか。見えるのは本当に一部で。
けれどそれがまたチラリズムとでもいうのかなんとも魅力的である。
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