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「・・・大丈夫ですか?」
ボーっと見つめていたためか、心配そうされてしまった。
まだ3口しか飲んでないのに酔ったと思われたのかもしれない。
だとしたら恥ずかしすぎる。
ごまかすように視線を彷徨わせたけれど、自分のカバンを見つけてはっと我に返る。
「あ、あの、佐伯さん・・・いらっしゃいますか・・・?」
「佐伯、ですか?・・・今日はまだいらっしゃってません」
当初の目的である佐伯さんの名前を出すと、彼は首をかしげ困った様に答えた。
その答えに困ってしまう。
もう既に約束の時間は過ぎているのだ。
なのにいないと言われてしまう。
からかわれたのかも、と思った。
そもそもこんな虫のいい話、信じる方が馬鹿だったのだ。
そう思うとなんだか自分の行動がすごく恥ずかしくなり、一気にグラスを開ける。
「お会計お願いできますか?あと、これ・・・返しておいてください」
財布を取り出し千円札を一枚ともらった名刺を差し出した。
メニューがないのでいくらするのかは分からなかったけれど、
さすがにお酒の1杯。これで足りると思うし彼も変な顔はしなかった。
けれど名刺を手にした途端、彼の表情が変わった。
「これ・・・どうしたんですか?」
「今日いただいて・・・10時にって待ち合わせだったんですけどいないみたいなので」
答えると彼は名刺を何度か裏返したりして見返している。
裏には確か何も書いてなかったはずだ。
「へえ・・・あの人がこっちの名刺渡すなんて・・・」
しばらく何かを考えていた彼は小さくそう呟いて、お金をスッと机を滑らせて返してくる。
「ごめんなさい。この時間はいつもいない事にって言われているので。すぐ呼んでくるので待ってていただけますか?」
そう言うと彼はすぐに店の裏の方へ姿を消してしまった。
立ち上がろうとした体をどうしようもなく椅子に戻して、
テーブルに置かれたままのお金と名刺を見返す。
それをどうしたらいいのかと迷っているうちにすぐ声が近づいてきた。
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