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「ばか、あの人を帰したらお前クビにするとこだったぞ」
「そういうなら事前に教えておけよ!」
バーテンダーの彼の頭をはたきながら姿を見せた佐伯さんは、
私を見つけるとすぐにカウンターから出てくる。
昼とは違い、彼も白いシャツに黒いズボンといった格好で別人の様だったけど、その姿がある事に安心した。
「秋月さんごめんなさい!」
「そんな・・・携帯にって言われたのに連絡しなかった私が悪いので・・・」
座っていいかと聞かれ頷けば、佐伯さんが隣の席に腰をおろした。
「りょうくーん!あとでこっちにもきてー!」
「はいはい。後でね」
すぐに佐伯さんの姿を見た奥のテーブル席で飲んでいた女性2人組が話かけてくるのを
佐伯さんは軽あしらって体を私の方に向けた。
「店に出るとお客さんに捕まっちゃうんで裏で待ってたんです。けどこんな事なら店にいればよかった・・・」
本当にごめんなさい、と改まって謝られて逆に恐縮してしまう。
こんなイケメンに頭を下げられるなんて、人生で初体験だ。
もうそれだけでいっぱいいっぱいになってしまう。
「どうですか?この店」
「え・・・あの・・・居心地のいい店だと・・・思います」
唐突に聞かれて、気の利いた返事ができない。
そんな私の返答が不服だったのか、佐伯さんは少し顔をしかめてしまった。
「思います?秋月さんが素直にどう思ったか聞きたいんです」
「いや、その悪い意味じゃなくて!・・・私にはちょっと不釣り合いで」
今度はちゃんと返答しようと思うのに、口から出てくるのはなんだか悪い言葉の様に思えてしまう。
いいお店ですね、って笑って言えばよかったと後悔しても遅くて、
逃げる様に先ほど飲み干したグラスを下げるバーテンダーの彼の動きを追う。
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