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「お酒も、おいしかったです。普段飲まないのでよくは分からないんですが」
「飲み慣れてないんですね。そう言えばちょっと頬が赤くなってる」
「ひゃっ!」
クスリ笑って伸びてきた手に自然に体が逃げてしまい、
思わずバランスを崩してスツールから落ちそうになり変な声を上げてしまった。
そんな私を見て佐伯さんはさらに楽しそうに笑っている。
男の人にはあまり慣れていなくて、人の温もりすらもうしばらく触れていない。
私の頬を撫でようとして伸びてきただろう手はそのまま行き場を無くし戻って行き、
なんだか過剰に反応してしまった事が申し訳ない。
「ここで働くこと、考えてくれました?」
「え?」
そんな私にかけた佐伯さんの声に、驚きの声を上げたのは私ではなくバーテンダーの彼。
「なんでお前が驚いてんだよ」
「いえ・・・店長が口説くなんて珍しいなと」
「店長!?」
2人の会話に今度は私が驚きの声を上げてしまった。
よく考えれば佐伯さんは『うちで働いて』と言っていた。
けれどその内容のが衝撃すぎてそこまで考えがまわらなかった。
「・・・言ってませんでしたっけ?」
私が驚いてるのにさらに驚かれてしまう。
「じゃあ改めて。ボヌールの店長の涼です。ついでにこっちのはうちのバーマンの達貴」
「よろしくお願いします」
改めて紹介されて2人を見やる。
佐伯さんと話してた時も思ったけれど、イケメンっていうのは表情が全然読めない。
仕事モードなのかもしれないけれど、決して崩されることのない笑顔に圧倒されてしまう。
もうここで働くかなんて決めた様なものだった。
どんな店かは分からなかったけれど、冒険するには最後かもしれないいい年齢だ。
足掻いてみたい、と思う心に2人の笑顔が後押しをする。
「あの・・・さえっ」
なのに、いざ働きたいと言おうと口を開くと、すぐに口に指を添えられ言葉を遮られてしまった。
素早い動きで私を制した佐伯さんはすぐに指を外したけれどチラリと周りを見渡す。
「店では上の名前で呼ばないでください」
顔を寄せて低く囁かれる。
内容よりも近づいてきた綺麗な顔にドキドキと心臓が高鳴った。
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