334人が本棚に入れています
本棚に追加
/543ページ
「あれ?絵美ちゃんちょっと痩せたんじゃない?」
「本当ですか?嬉しい」
「例のサンタ服を着るためにがんばってるの?」
常連さんの女性にそんな事を言われて、大輔くんを睨み付けた。
「みんなに言っちゃったんで、着るしかないっすよ」
「もう!」
新規のお客さんが多くて初めは不安だったけれど、常連さんがさりげなくフォローしてくれたりしてるのが分かる。
こうやって柔らかい空気を作ってくれて。
2時を過ぎると、一見のお客さんはほとんどいなくなって。
店内の年齢層も若くなる。
みんなどこかキラキラした人達。
周辺のお店で働く、ホストやキャバ嬢の人が多くなるから。
みんな別々に来るのに、席もごちゃごちゃに座ってそれぞれ話したり。
「達貴さんおかわりー!」
「もう止めておきなさい」
達貴さんがお酒を作るのを拒むのも、初めはびっくりした。
お酒を売るお店でなんで、なんて思ったけれど、
それが達貴さんの優しさだってすぐに分かる。
みんな、店に来る時にはもうお酒の匂いをさせているから。
その職業柄、仕事中に飲んでいるだろう人達。
なんでコーヒーや紅茶を扱ってるのか、不思議だった。
オーナーが作るお菓子に合わせてだと思ってたけど、この時間のためだったんだって思う。
バーなのに、喫茶店みたいにみんながそれを飲むから。
「あ、そう言えば聞きたい事があったんです」
何度か顔を合わせているホストをやってるという人に小声で話しかける。
「ドンペリって、すっごい高いんですよね?」
「だめだよー。絵美ちゃんを店に呼んだりしたら俺殺されちゃうよ」
驚いた顔で返ってきた返答に、慌てて首を振る。
「そうじゃなくて!この間飲ませてもらったんですけど、あれって100万とかするんですよね?」
「ああ、何を飲んだか知らないけどそんなしないよー」
これは秘密なんだけど、と彼が教えてくれたのはホストクラブでの売価の付け方の話で。
100万のお酒も仕入れは数万円と言う話に驚愕してしまう。
「うう・・・私絶対にホストクラブなんていけない・・・」
そんな私に笑うお客さん。
楽しい時間が、頭の中を埋め尽くそうとしていた辛い記憶を包んで行ってくれる。
最初のコメントを投稿しよう!