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佐伯さんに渡された紙。
一番上は名前や住所に電話番号、生年月日と普通の内容だったのに、
学歴なんて欄はなくてそれにすこしほっとした。
けれどその代わりになんでか出身地や趣味、好きなものや好きな飲み物、食べ物という項目があった。
はじめは履歴書を用意しなかった自分を叱咤したけど、
これがここの履歴書なのかな、と思って埋めていく。
どうしても右上がりになってしまう、クセのある上手いとは言えない字を、出来るだけ丁寧に。
書き終わって顔を上げると、なにか話していたらしい2人は何食わぬ顔で笑った。
「ありがとうございます。あとこれは大事にしまっておいてください。返されるのも悲しいので」
「あ、ごめんなさい!」
履歴書の紙と引き替えに渡された名刺はさっき私がカウンターに置きっぱなしにしてしまったものだ。
名字は呼ばないで、と言われたからには何かきっと理由があるんだろうと思う。
なのにそれが書かれた名刺を置きっぱなしにしてしまったのは失敗だった、と慌てて受け取ってお財布の中に入れた。
お札入れの横の、普段使わない小さなポケットの中に。
「へー。見かけによらず・・・」
2人は私の書いた履歴書を見て楽しそうにしている。
何か変な事を書いたっけ、と思うがもしかしたら全部変な事かもしれない、と思う。
だってあんな履歴書を書いたのは初めてだ。
自分の事を紙に書くなんて、小学校の卒業式で回した自己紹介カード以来。
とくに趣味は、28の女が書くものではない。
でも他の思い当たるものがなく、嘘も書けないため仕方がなかった。
「おはようございます」
なんだか恥ずかしくて下を向いてると、カウンターの奥から1人の男の子が現れた。
「おはよう」
「大輔、おはよう」
「2人揃ってカウンターにいるなんて珍しいっすね」
白いシャツを胸元まで開いて、黒いパンツ姿。
店の照明で少し青っぽく見えるけれど、髪の毛は多分金髪。
ふんわりツンツンに立たせている髪から覗く右耳には音が鳴りそうな程ついたピアス。
地元の友達にこういう人が好きな子がいた。確かヴィジュアル系っていう人達。
まさにそんなイメージの人だった。
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