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「お久しぶりです。僕の事覚えていますか?」
ひょっこり、左後ろから現れた顔に飛び跳ねかけた体をなんとか抑えながら、
「ナンパ!?」と出かかった声を飲み込んだ。
ワックスでふんわりと跳ねた茶髪。
男のくせにくりっと大きな二重の瞳がじっと私を見ている。
どこか中性的で、男っぽい女と言われても納得してしまうそうだ。
イケメン、という言葉がふさわしく、
けれどそれよりも前に可愛いって言ってしまいそうな雰囲気。
一見軽薄で、今時って感じの男の子。
見れば見るほど非の打ち所のない整った顔。
普通はこんな男の子に話しかけられたらたじろいでしまうけれど、
「あ、こんにちは」
見覚えのある姿に笑顔で挨拶をした。笑顔、と言っても所謂作り笑い。
前職である2年以上続けていたカフェのくせみたいなもので、しかも目の前の彼はそこのお客さんだ。
「覚えててくれたんですねーよかった。待ち合わせとかですか?」
「いや一人で・・・」
「お次のお客様どうぞー」
今は関係ない人間だとはいえ昔のお得意様。
毎週月曜の午後2時頃に半年ほど通ってくれた彼は私の中でお客様、のポジションにすっかり定着してしまっていて、
向き直って話そうとしたら並んでいたカウンターの店員に声をかけられてしまった。
「えっと・・・アイスラテを」
「アメリカンとチョコケーキ」
彼にも促され注文を始めると、横から一緒に注文されてしまい、
さらには困惑している間に持って帰るはずだったのが店内で飲んでいく事になってしまった。
拒否したいけれど後ろに並ぶ他の人や、
急かすような店員さんに言い出せず慌てて財布を取り出してみたものの。
「・・・驕りますよ?」
財布の中身は全然足りない100円あまりの硬貨と万札さんのみ。
迷わず諭吉さんを取り出す私を見て笑った彼に押されそのまま会計までされてしまった。
「あ、あの両替して返しますので」
「あれ、お願いしていいですか?」
すぐに出てきたトレイを受け取って行ってしまおうとする姿を、
すぐ追いかけ声をかけるけどスルーされて、
指さされた先を見ればセルフサービスのミルクやシュガー。
もう一度見返した彼の笑顔に何も言えなくなり大人しく取りに行く。
といっても私は使用する物はないからミルク2個だけ。
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