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「絵美ちゃん、こいつ大輔ね」
「ん?店長の新しい彼女っすか?」
「ばーか」
目の前でじゃれるように佐伯さんが大輔、と紹介された人を叩いてるけれど、そんなのはどうでもいい。
絵美ちゃん、そう言われた事に心臓がバクバクと高鳴った。
友達にも家族にも、いつも呼び捨てにされている。
それ以外では名字で呼ばれる事が普通で、絵美ちゃん、なんて呼ばれたのはあまりにも久しぶりすぎて。
「絵美ちゃん?どうした?」
「ひゃっ!?」
再度呼ばれて、ビクリと体が跳ねてしまう。
「・・・僕にはそんな態度見せなかったのに、そっかー。絵美ちゃんは大輔みたいのがタイプだったかー」
「店長失恋っすねー」
「ち、ち、違います!」
なんだ、とちょっと残念そうな顔をした佐伯さんに全力で手を左右に振って否定する。
「あ、あの・・・その・・・名前・・・ちゃん付けされたの久しぶりで・・・」
あまりに恥ずかしくて段々と小さくなってく声は、3人に笑われてしまった。
「なにそれ、可愛い」
「じゃあ俺も絵美ちゃんって呼ばせてもらおうかな」
「あ、俺も俺も!」
「大輔はだめ」
恥ずかしかったけれど、3人が笑ってるのを見て私もなんだか笑えてきてしまった。
「絵美ちゃん。今日まだ時間大丈夫ならちょっと案内するけど」
「大丈夫です」
時計を見たらまだ23時。予定はないし電車もまだ動いてる時間だ。
「じゃあ裏に・・・」
「りょうくん!」
佐伯さんがカウンターから出て案内してくれようとした時だった。
いつの間にか真横に立っていたのは先ほども声をかけてきていた女性の1人。
「・・・達貴、あと頼む」
「はい」
佐伯さんの腕にすかさず絡みついた細い腕。
それを振り払うでもなく、佐伯さんはそれだけ言って彼女達の元へと行った。
「大輔、こちら新しくここに入る絵美ちゃん。裏案内してあげて」
「はーい。絵美ちゃ・・・絵美さん、こっちにどうぞ」
大輔くんが私の名前をちゃん付けしようとして、達貴さんに睨まれて言い直した。
まだほんの短時間なのに、楽しい人達で、楽しい職場。
それが伝わってきてこれからに胸が膨らむ。
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