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彼はいつも、アメリカンにミルク2個で砂糖はなし。
定期的にくる常連とも言えるお客さんのミルクと砂糖の量は覚える様にしていたから、
そう簡単には忘れない。
そのままスタスタと窓際の席に向かう彼を追いかけた。
「うぉっ!」
ゆったりとした大きめのソファーは座り心地がいいんだろうな、
といつもくる度に思っていた。
一人で外食が出来ないタイプの私はいつも見ているばかりだった。
けれど実際座って見たら思っていた以上に柔らかくて、
体が沈む感覚にびっくりして素で声を上げてしまう。
そんな私を見て笑う彼を軽く睨んでみたけれど、余計笑われてしまうだけだった。
今すぐここから逃げ出してしまいたいけれど、
すでに持ち帰り用のプラスチックのカップではなくグラスに入れられた目の前のラテが恨めしい。
笑うことに満足したらしい彼は、
無言のままコーヒーにミルクを入れて飲み始める。
その姿に私も落ち着きを取り戻してラテに口をつけてみる。
口の中に拡がるほどよい甘さとほろ苦さに笑みを零しながら窓から外の景色を眺めた。
行き交う人はどこかせわしくて、
それをゆったりと見ているこの空間は思ってたよりもいいかもしれない、なんて思ってしまう。
「一人で飲むの寂しかったんで、いきなり声かけてしまってすみませんでした」
グラスの中身が半分になりかかった頃、
漸く口を開いた彼の存在を少し忘れかけていた事に気付いた。
立派なソファーのせいもあり完全に1人でいるモードになってしまっていたのを、
咄嗟に切り替えて彼を見やる。
一人が寂しいなんて私と一緒だ、と思ったけど、すぐにそれは嘘だな、と思った。
私の知ってる彼はいつも一人で来店していた。
自慢のサンドイッチを提供するお店だった。
サンドイッチ以外にも女性向けのバニラアイスと生クリームの乗ったフレンチトーストが人気で、
女性客が多かったけれど、クラブハウスサンドなどボリュームのあるメニューもあったため男性が一人で来る事も多かった。
コーヒーにはとくにこだわりはなかったが、
喫茶店代わりにそれだけを飲みにくる人もいた。
彼はそんな店に毎週顔を出していたんだ。
本当に寂しかったら、いや、私だったらそんなの出来ない。
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