偶然の出会い

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「お詫びにこれ、食べて下さい」 一緒に購入していたチョコケーキを差し出され手を出すのを戸惑ってしまう。 しかし早く食べて、とばかりに向けられる笑顔の圧力に負けて1口食べてみる。 「んっ、おいしい!」 なめらかで口当たりのいいクリームは甘すぎず上品で、 しっとりとしたスポンジと何層かに重なっている大人のケーキ。 店内限定のためいままで気にはなっていたものの、 食べる機会に恵まれなかったチョコケーキは、 ケーキ大好きな私には魅力的すぎて。 目の前のよく知らない彼の事も奢りであることも忘れて頬張ってしまう。 口の中でとろけていくチョコを目を閉じて感じていると目の前でくすり笑う声がして、はっと目を開いた。 「あの店、辞めちゃったんですか?」 「・・・あ、はい」 「残念だな。秋月さんにピッタリだったのに」 「・・・え?」 食べきるのを待っていたかの様に話しかけられフォークをお皿に置き返事をすると、 彼は何食わぬ顔で首をかしげ聞いてきた。 おまけに教えてないはずの名前を呼ばれ困惑してしまう。 「なんで名前・・・」 「名札に秋月って・・・間違ってました?」 間違ってない。間違ってはいないが。 確かに胸元の名札には名字である秋月というのを付けて仕事をしていた。 けれどあんなのを覚えている人がいると思わなかった。 不安そうな彼に小さく首を振って答えると彼は安心したようにコーヒーに口をつける。 「今は何かされてるんですか?」 「えっと・・・とくには」 話の流れから仕事の事だろうと思い答える。 一応就活はしているが、高校中退し学歴も資格なく、 年齢もそれなりの自分には正社員は高い壁。 さらにバイトとして入っていた前職を辞めた理由もあり中々進んでいなかった。 派遣の日雇いを週末に回して、小遣い程度に趣味で昔から好きなイラスト書いて稼いでる程度だ。
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