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「・・・秋月さんって夜も働けたりします?」
「え、夜ですか?」
唐突に聞かれた事に夜、という単語からいかがわしい仕事を想像してしまい、
思わず赤くなってそうな顔を隠すように俯いた。
「あ、変な意味じゃなく!単純に深夜帯の仕事って事です!」
そんな私を見て彼は慌てた様に否定する。その姿がなんか可愛くて笑えた。
「まあ・・・いつでも」
数年前までは時間に限られていた。
けれど今はこの時間じゃなきゃ、というのはなくなったし働けるならいつでも、というのが本音だ。
先の見えない話の流れに困惑と疑惑で戸惑ってしまう。
「急な話ですが、うちで働いてくれませんか?」
彼は会話をしながら財布を取り出し、
中から出した名刺をテーブルの上を滑らす様に差し出してきた。
手渡されたら戸惑ってしまうけど、
こうやって置かれると素直に覗き込んでしまえる自分に、
彼はこういうのに慣れているのかなと思った。
「ぼ・・・ぼんへあー?」
「ボヌールです」
名刺の内容上段にあった『Bonheur』の文字が読めなくて、声に出してみると笑われてしまった。
年月すら英語で言うのは危ういくらい英語は苦手なんだ。
カタカナで書いてよ、と思うけれどもちろんこれは口には出せない。
中段には大きめの文字で『佐伯 涼』おそらくこれが彼の名前なのだと思う。
そしてその下には住所、固定電話の番号、携帯電話の番号が書かれている。
「バーなんですけど、調度女性のスタッフを探してまして。それもケーキの好きなスタッフをね」
「ケーキが好きな?」
「理由はのちのち。失礼ですけどさっきのチョコケーキで秋月さんの反応をちょっと伺わせてもらっちゃいました」
ごめんなさい、と口では言ってるものの表情はどう見ても悪いと思っていない笑顔だ。
なんだかその笑顔に毒気を抜かれてしまう。
一見今時のチャラい男の子、という感じなのにイケメンの特権か全てが爽やかに感じる。
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