第11章 移籍

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 マリア、町に帰ろう。  虚ろな表情の彼に、よっぽどそう言いたいのを由真はこらえる。  MOONの周辺は、確かにマリアを育ててくれた。でも、ギルティーは、あの、ZENNという人は結局何をしてくれたというのか。 死ぬのなら一人で死ねば良かったのだ。 マリアまで巻き込むことはない。  マリアの意識が戻るまでの時間、初めて会ったお母さんと秘書の田所さんと三人、どれほどの思いをしたかしれない。 おまけにあの二人は、マリアの名字が変わっていたのもそこで初めて知ったのだ。  そして、周囲が気を使ってくれたとはいうものの、夏のような暑さの、ZENNの告別式。 ぼろぼろのマリアの姿は仁やZENNの母の陰に、テレビで全国に流れ… マスコミには面白おかしく報道され続けていた。 「ギルティー帝国のお家騒動」「死の直前の謎の養子縁組」「疑惑の後継者指名」… 医者には、慣れた環境でしばらく静養を、と言われている。それでこの自宅に帰ってくれば、週刊誌の取材が下の、マンションの玄関のインターホンに突撃してくる。 しかし実家にいい思い出のないマリアは実家に帰ろうともしないのだった。 かといって、二人が出会った、町のあの狭いアパートに帰るわけにもいかない。 何より、あのアパートはもう取り壊されたとCUEから聞いていた。
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