第1章

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勝倫太郎の朝は早い。 勝は警視庁公安部第4課に所属する歴とした警察官僚である。 公安部第4課とは捜査資料の管理をする部署である。 いわば、捜査が表舞台とすると、それを支える裏方の仕事だ。 勝がこの部署に転籍してすでに2年が経とうとしていた。 そもそも勝は公安部で極左組織の捜査を専門としていた。 優れた行動力と的確な判断力を持つ勝は優れた捜査官であったが、その反面、独断と直感で突き進む捜査スタイルはまわりとの軋轢を生み、それが原因で2年前に勝の資質としてはまったく適性とは思えない資料管理という役職に異動になった経緯がある。 もっとも勝自身はそれを苦にする風でもなく、相変わらず自由気ままな振る舞いで上司同僚を悩ましている。 また、勝の捜査能力を未だに高く評価している一部の上層部がたびたび特命扱いで特殊な捜査に勝を駆り出すことがあり、職場では勝に決まった仕事を与えず、遊軍的なポジションで仕事をさせている。 というより、遊ばしているというのが実情だ。 とはいえ、9時に出勤して18時に仕事を終えるという基本的な勤務スタイルだけは、特命の捜査がない限り勝にも適用されている。
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