第2章

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今から約一年前─── 「ほーじょぉ~…もう帰りょ~かぁ?」 「ふぁ?!らりいってんの?お前。 まらこれからっしょっ!まさかもうギブとか??」 「ちっげぇよ!俺ぁまら飲めりゅよ! ただちょーっと…ねみぃだけぇ~。 今晩お前ンちに泊めてくれんならもしゅこし付き合ってもいいらけどぉ。」 「おう!泊まれ泊まりぇぃ!客用の布団は一組しかねぇけど、小山田とくっついて寝りゃ寒かねぇだろ。」 「そっかあ!そうだよな! じゃ今夜は朝までとことん飲んで、ほーじょーんちにお泊まり会っつーことで、いいよな?小山田! ってアリャ?……小山田は?どこいった?」 赤ら顔の長山が居酒屋店内を見渡してもう一人の連れ、小山田を探す。 だらけた顔には黒縁眼鏡がずり落ちている。 「あ?さっきトイレに行くっつってたけど…アイツおせぇな……。 まさか酔い覚ましに便器で顔洗ってんじゃねーの?……ぶはっ!」 「ダハハハ!そりゃバカだし他の客に迷惑だろ! しゃーない。ちょっと俺見てくりゅからほーじょーはまら帰んらんでいてよ…?わーったか?!」 「帰るかバーカ。早ういけぇ……。 もう~…長山はぁ、酒入るとノリノリになんのは昔とちっともかわんねぇよなぁ~。 ……はぁ……。」 俺はふらつきながらトイレに行く長山を見送って安堵の溜息を吐くと目の前のコップ酒を煽った。 かなりの量を飲んで既にベロベロに酔っているのに今日は飲まずにいられない。 その上張り合うように長山達と勢いで飲んでいたから今はこのあり様だ。 「腹タップンタップン……」 自分の膨らんだ腹を見て俺は臍の辺りを摩るとひとりごとをこぼした。 今日は学生時代から付き合ってる友人三人と馴染みの赤提灯に飲みに来ていた。 八時から始めた飲み会は気がつけば午前様で、店内の客もこの時間になると来た時よりだいぶ減っている。 何か腹に入れようと手前にあった付出しの枝豆の皿に指を突っ込めばほとんど殻しか入っておらず、 「んだよバカモノどもが……。殻を一緒に入れんなっつーの……。」 コントロールしづらい手で箸をようやく握ると、ホルモンの煮込みが入った器を愚痴りながら寄せ箸で手繰りよせた。
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