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至近距離で見つめ合う。世津は勘違いしてしまったことに気づいたんだろう。顔を真っ赤にして、ぱくぱくと金魚のように口を動かした。
「世津ちゃん、紅葉みたいになってる」
「いけずぅ。えげつないっ」
「世津ちゃん、男のひとと付き合ったことある?」
「あらしまへん。わて、おとこしやし」
「だろうなぁ。でも俺、世津ちゃんのこと、男だけど好きなんだ」
告白をしてしまった。まだ、言うつもりもなかった恋心。
世津はまたぱくぱくと口を開けて、紅葉よりも赤くなった。
ゆっくりと距離をつめる。
橋の一番後ろまで下がった世津は奥市を見上げるように背中を反らした。一枚、紅葉を拾って世津のくちびるにつける。
「貴船神社でお願いしたのは、世津ちゃんとうまくいきますようにってお願いしてきたんだ」
紅葉越しのキスは美しかったが、ざらざらしていて嬉しくない。奥市はぽいと、紅葉を河へ投げると抱き込むように世津を腕のなかへ引き込んだ。
「世津ちゃんがいいって言うまで、行儀ようしとく」
世津の口調を真似てそう言うと、胸を突っ張って少しだけ距離を取られる。
「いやや、おまへん」
またかんざしがカタカタ揺れて、世津のかわいさに悶絶しそうになった。好きという言葉を訊くのは難しそうだが、それでも大事にしたいと気持ちが募った。
「あったこうして」
「世津ちゃん、かわいすぎる」
奥市は、今度こそ真っ赤な本物の紅葉をついばんだ。
END
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