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まるたけえべすに
おしおいけ
あねさんろっかくたこにしき
しあやぶったか
まつまんごじょう
せったちゃらちゃらうおのたな
ろくじょうさんてつとおりすぎ
ひっちょうこえればはっくじょう
じゅうじょうとうじでとどめさす
(京のわらべうた)
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「姉小路に三条、六角通りに、蛸薬師通りですか?」
建築デザインを学ぶ西村奥市は度々京都を訪れていた。
現場にも足を運ぶ、叩上げの一級建築士で二十七歳、その体躯は土方と同じ張った体つきをしている。羨ましく見上げられる長身だが、日本家屋は奥市には冷たい。梁が低く、いかんせん暮らしにくい。
そんな奥市が京都の町屋を現代風にアレンジしたのが、先のデザインコンテストで優勝をもたらした。それをきっかけに仕事はどんどん舞い込んでくる。ありがたい悲鳴だ。
悲鳴をあげるほど忙しい中、それでも京都に赴くのはのっぴきならぬ訳がある。
「そうどす。錦小路とあわせて、あねさんろっかくたこにしき、ゆうんどす」
柔らかな京都弁をしゃべる男の名前は室和世津。見知った連中には“せっちゃん”と呼ばれ親しまれている。
奥市は、初め、世津を女だと思った。
京都府職員で観光課に勤務する二十四歳、着物姿や、ときに舞妓姿になって町を案内している。
化粧を落とした顔も知っているが、もう女で間違いないくらい可愛らしい顔をしている。身長は十センチほどしか変わらないが、女言葉が似合いすぎてたまらない。
絶賛、口説き落とし中なのだが、堅い職業のせいなのか、ガードも堅そうでどこから切り込んでいくべきか悩んでいるところだ。
これで会うのは十回目。そろそろ堕ちてもいい頃合いなのだが、奥市にとっては一日で手に入ることが多いせいか、難攻不落の気配がしていた。
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