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◆・◇・◆
《春時雨(はるしぐれ) 》
亜里は、迷路の中にいた。
あれほど亜里が惹かれたはずの男は、亜里を貶し尽くしていた。
亜里から全ての自信と意思を奪い、亜里が自分の足で歩くことも禁じる。
女であること。
存在意義を全否定され続ける亜里は、受ける暴力を跳ね返せない。
そればかりか、自分が悪いからなのだと、思い込むようになっていた。
亜里が粉々に蹴られたある日。
他県から出張してきた男と出会う。
二十四歳の亜里と同じ歳の男。
男はとても優しく、亜里の心をただただ、潤そうとしてくれた。
手を振りかざされただけなのに。
亜里は即座に身を竦める。
そんな亜里を見て。
男は今、亜里の身に何が起きているかを、把握してしまった。
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