錯覚は裏切る

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◆・◇・◆  離婚届を提出した翌日。 亜里はクルージングへと連れ出された。  男性恐怖症にならないように。 亜里の傍らで、半年以上亜里を見守り続けていた男からの誘いだった。  船内でフレンチディナーを楽しんだ後、男が亜里に跪く。 「俺と付き合って下さい」  亜里と同じ歳のこの男も、既に妻との別居を経験していた。  きちんとプロポーズされたことさえなかった亜里へ、男は言葉を伝える。  亜里の首に、男は自分が生誕の際に授けられたお守りをかけた。 他の女には、外して渡したことなどない男の宝物。 「なんでこんな大事なもの……」 「亜里を、守りたいから」  何より男は、亜里を殴らなかった。
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