10人が本棚に入れています
本棚に追加
「何?」
「いや、だから……その、お見舞いに持って来てもらいたいんだ」
今にも消え入りそうなほど、小さな声を出した彼の顔は真っ赤だった。
窓から射し込む夕日に照らされ、益々赤みを帯びているように見える。
おそらく、咲も同じような状態なのだろう。
──ああ、焦れったい! 何で、そこで黙るのよ!
カウンター越しに二人を見守る叔母はまるで恋愛もののドラマでも見ているかのように、夢中になっていた。
──もう、見てらんないわね!
しびれを切らした彼女は、二人のもとへ速歩きで近付いていく。
「はい、おまちどおさま。あらっ? 二人とも顔が真っ赤よ。熱でもあるの?」
「あっ、ありがとうございます。大丈夫、気のせいですよ」
慌てて顔を上げた光輝は、まるで茹でダコのようだ。
──可愛いー! からかいたい!
しかし、そんなことを考えている叔母に、咲は訝しげな視線を送った。
その目には『邪魔だ』とはっきり書かれている。
「……ゆっくりしてねぇ」
──咲ちゃん。どうして、怒っているのかしら?
鈍感。
正にその言葉が今の彼女には、ピッタリだった。
最初のコメントを投稿しよう!