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一ヶ月後。
九月に入り、新学期が始まった。
受験生ともなると、やはり夏を過ぎれば周りの雰囲気も変わってくる。
光輝の通う名蔵(なぐら)高校は文武両道を目指す、都内でもそこそこ有名な進学校だ。
そのため、生徒の約九割は大学受験の道を選ぶ。
一方、残りの一割はというと……専門学校へ進学するか、就職するかに別れるのだ。
当然、学校側としては進学率を上げるため大学受験を勧めてくるのだが、光輝の選んだ道は咲と同じ専門学校だった。
そして、放課後。
彼は柔道部の監督である坂本と三階の廊下でバッタリ鉢合わせてしまい、呼び止められていた。
「神山。大学からの推薦、本当に蹴るのか?」
「はい。申し訳ありませんが、柔道で進学するつもりは無いので」
「そうか。だが、それならなぜ手術を受ける気になったんだ?」
こう訊ねる坂本の太い眉が、次第に中心へ寄っていく。
まるで熊のような体格にスキンヘッドという容姿だけでも威圧感はたっぷりなのだが、機嫌が悪いことで益々拍車がかかっている。
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