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「最初はインターハイに出場できなかったことで、自暴自棄になっていました。ですが、結果が出た時自分の心境も変わったんです。もう、過ぎたことを悩んでいても仕方ないって。
その時、父からの勧めもあって手術を受けることで、少しでも前に進める気がしたので……」
「ああ、そういえばお前の親父さんはご自宅で接骨院を開いているんだったな。やはり、後を継ぐために専門学校へ行くのか?」
「いいえ、まだそこまでは。ただ今回のことがきっかけで父の仕事に、興味を持つようになったのは事実です」
「そうか。しっかり考えた末の結論なら、俺はもう何も言わん。明後日の手術、頑張って来いよ」
「ありがとうございます」
自分を柔道が盛んな大学へ進学させたい坂本の気持ちもよくわかる。
推薦が来ている大学は、彼の母校でもあるのだ。
確かに怪我をしたあの日までは光輝も闘志を燃やし続け、大学からの推薦を心から喜んでいた。
日本一の柔道家に憧れていたからだ。
だが、今の彼に以前の様な闘争心は全く無かった。
牙を抜かれた獅子が闘うことなど、もう不可能なのだ。
言葉とは裏腹に残念そうな表情を浮かべる監督に頭を下げ、光輝は再び前へ歩き出した。
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