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少し前まで痛みに苦しんでいた階段も、今では軽い足取りで降りることができる。
やがて一階の玄関に着き靴に履き替えていると、背後から呼び止められた。
──今度は誰だ?
振り返ると、坊主頭に柔道着姿の小柄な後輩がこちらへ走ってくるではないか。
「おう、松野!」
そして、光輝の目の前に来たところで、松野は勢いよく頭を下げた。
「こんちはっす! 膝の具合、どうっすか?」
そう訊ねる彼の表情は、武道をやっている青年とは思えないほど弱々しく、眉もへの字に曲がっている。
「あの日、俺が投げられなきゃ、先輩は怪我なんかしなかったのに。ホント、すんません!」
先程より更に深く頭を下げられ、光輝は慌てて弁解した。
「いや、あれは完全に自分の不注意だ。それに、格闘技に怪我は付きもんだからな。気にしないでくれ」
「ホント、すんません……」
松野はまだ一年生だ。
三年生である光輝に、怪我を負わせてしまったことを悔やんでいたのだろう。
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