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「そろそろ稽古始まるぞ。頑張れよ!」
「はい! 失礼します!」
そう言って松野は、格技棟へ向かって走り出した。
──さて、帰るか。
いよいよ手術が明後日に迫り明日からは検査の為、御茶ノ水にある大学病院へ入院する。
だがその前に、光輝には済ませておきたいことがあった。
ポケットからケータイを取り出し、通話履歴から咲の名前を探す。
そしてカーソルを合わせ、通話ボタンを押した。
どうして、こういう時の呼び出し音は心臓を高鳴らせるのだろうか。
『もしもし?』
受話器越しに動揺を悟られないよう、光輝は声を低くした。
「今、大丈夫か?」
『うん、どうしたの?』
「今日の夕方、ちょっと時間くれねぇかな? 話したいことがあるんだ」
『……わかった。じゃあ、六時にいつもの喫茶店で良い?』
「ああ、頼む」
終了ボタンを押す親指が、心なしか震えている。
──そろそろ前に進むか……。
歩き出した光輝の膝は以前のような痛みもなく、自然な動きを見せていた。
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