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「いや、そういうわけじゃないっすけど」
「ふーん。それよりお前、柔道部やろ? なんで耳潰れてないんや!?」
突然話題を変えると、河野は見事に変形した自分の右耳を見せながら、訝しげな視線を送った。
「なんでって言われても……」
確かに、格闘技やラグビーのようなコンタクトスポーツをやっている人間は、耳を何かにぶつけた際に内出血が起こる。
それが固まって『耳介血腫』
いわゆる、餃子耳になりやすいのだ。
しかし、光輝は生まれつき耳が柔らかいようで幸いにも綺麗なままだった。
「で、退院したらまた柔道やるんか?」
またもや話題が変わった。
もはや全く噛み合わない会話を続けるのも面倒なので、光輝は右脚が痛むのを我慢するように顔をしかめる。
「おい、大丈夫か?」
「……すんません、ちょっと休ませてください」
「おう。ヤバかったら、愛ちゃん呼びや」
その言葉を最後に、光輝は両目を閉じた。
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