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「……わかりました。それ、投げてください」
龍生は男の手にある携帯電話を見つめていたが、すぐにため息をついてそう指示を出す。
そう言われ、男はギョッとした目で龍生を見た。新品なのか物の扱いが上手いのか、男の携帯電話にはキズ一つない。比較的古い機種であるので後者なのだろう。しかし、すぐに意を決して男はタイル張りの歩道の上を滑らせるように携帯電話を投げた。
時折、小石に勢いを殺され跳ねながらも龍生の足元までたどり着く。龍生が携帯電話を耳に当てた。
『龍坊っちゃん』
電話口から聞こえる老爺の声に龍生は再びため息を漏らす。
「二十代前半から後半ほどの“薬惑い(やくまどい)”が二人。どちらも男性。一人は皮下注射による投与、もう一人は吸引……いや経口投与と思われます」
チンピラ達を観察しながら龍生がそう告げた。電話口からする音を聞く限り、老爺は龍生の言葉を繰り返しながらメモを取っている様子である。
『薬惑い……シス・アンですか。わかりました。救急車を手配します』
「出来るだけ早くしてください。僕は今、気付け剤を持っていません」
『承知しました。数分のうちに向かうよう指示します。それでは』
電話が切れる音がした後、プープーと不通音が龍生の耳に鳴り響く。
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