4人が本棚に入れています
本棚に追加
逃げていく男を視線だけで追い、遠ざかっていったのを確認する。周囲にいた野次馬達ももう誰一人いない。シャルラは、改めて女性を観察し始めた。
始めの印象のせいなのか、気づかなかったが、顔色が酷く悪い。生気が消え失せたと言えるほどに青白い顔には死相さえ滲んでいるかのようだ。
出来れば直ぐに救急車を呼ぶべきなのだろう。しかしそれやりも先に女性から包丁を取り上げなければならない。周囲から野次馬がいなくなったとはいえ、もともと人通りの多い道であることには代わりはなかった。何も知らない一般人が現れて女性に襲われる可能性もある。
ジリジリと女性を刺激しないようにゆっくりと距離を詰めた。
女性は言葉にもならない呻き声をあげて何事かを口走っている。おそらくは先程言っていた『ちょうだい』と同じような言葉だろう。
手を伸ばせば女性を掴めるというところまで近づき、シャルラは目蓋を閉じる。深呼吸を繰り返してタイミングを計り、今だと言わんばかりに目を見開いた。
「うぐっ」
女性はシャルラが近付いていたと気づいていなかったのだ。突然腕を捕まれて驚きを滲ませた声をあげる。シャルラはその虚をつき、腕を掴んだまま女性の背後に周り込んで腕を締め上げた。
痛みで手の力が緩み、金属音を響かせながら包丁が地面に落ちる。
最初のコメントを投稿しよう!