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「……余計な会話はしたくない。簡潔に言おう。あの女性の件から手を引くんだ」
男──柳林帝生の一言にシャルラの顔が険しくなる。その表情から意を汲み取ったのだろうか、短いため息を漏らして頭を抱える仕草を見せた。
「君だって彼女の顔色の悪さを見て、柳林に引き渡すべきだと考えただろう?」
帝生は妙な間を置いて、シャルラに正しい──否、柳林が優勢になるような思考を持つように促した。
桃瀬と柳林はそもそも理想とするものが似通っているが、そのやり方は決定的に異なる。それが軋轢となって二つの家の歩み寄りを阻み、関係の悪化を促していた。
シャルラとて女性の体調を危惧しなかったわけではないが、優先すべきは治安だと判断している。柳林が──帝生が先に遭遇していれば、治安など二の次だったに違いない。それでも柳林はきっと一人の怪我人も出さないのだろう。
シャルラは頬を膨らませて不満を露にした。柳林に劣等感を抱いているとは思いたくない。帝生の言うことに素直に従うのも癪だ。
「けれど彼女は傷害未遂を……」
「桃瀬妹が未然に防いだんだ。無罪放免でいいだろう。それよりも風柳館(ふうりゅうかん)で薬物依存の治療をしなければ手遅れになる」
反論に口を開こうとしたが、直ぐに口をつぐんでそっぽを向く。
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