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「わかりました。後日こちらから聴取に向かいます。風柳館ですね? ……それと、私はシャルラです。桃瀬シャルラ。いい加減に覚えてください」
至極嫌そうに吐き捨てると、シャルラは自分の髪を結っている布をほどいた。シャルラの絹糸のように細い黒髪が肩に落ちる。腰ほどまでに延びた艶やかで癖のない髪を揺らしながら、地面に落ちた包丁のところまで歩んだ。
「クラース……桃瀬兄によろしくな」
帝生の一言に弾かれるように振り返り、鋭く睨み付けてから短く舌打ちを溢す。その言葉には答えないと言わんばかりに視線を外し、髪を束ねていた布で包丁を掴んだ。そのまま刀身を覆い隠すように包丁を包み込む。
帝生は女性の側まで近づくとハンカチで口元を覆いながら、倒れ込んで浅く息をしている女性を抱き起こした。そのまま、邪魔にならない場所まで運ぶ。そして携帯電話を取り出して、何処へかと電話を掛けた。
おそらくは柳林が経営している病院である風柳館なのだろうとシャルラは考える。
ここに留まっても意味はないだろうと踵を返して、歩き出した。吹き抜ける風が何処からか薄紅色の花びらを運んでくる。再び周囲を見回すと、街路樹が若葉を風に遊ばせていた。
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