4人が本棚に入れています
本棚に追加
ふふっと笑い声を漏らすコルンを一瞥するとシャルラは、コルンの服を確認する。白地のYシャツに黒地のスラックス、腰には黒いエプロンを巻いていた。
「……今日は店番なの?」
話をすり替える意味合いも含めてそう問い掛ける。コルンは自分の服を確認するように見てから笑顔を浮かべた。
「ええ、食べて行きます?」
二人がいるのは最近建てられた異国料理のスタッフルームである。スタッフルームとはいえ、従業員の着替えスペースや荷物置き場では決してない。客室と同じくらいの広さの中に様々な書類や捜査資料などがおかれている。
警察署のような表立った建物はなく、溢れるほどの飲食店全てが桃瀬の隠れ蓑になっていた。もちろん桃瀬宗家の巨大な屋敷が大元ではあるが、宗家一人一人に地区を割り振ってその地区全ての飲食店の運営をもこなしている。もちろん、それぞれの店に店長や情報を精査する人員もおり、コルンはその内の一人だ。
それらは酔狂のためでも金儲けのためでもなく、ただ純粋に捜査のためだけ。人というものは食べたり飲んでる時が一番緩んでいる。桃瀬はそれを利用して、他愛のない会話から点を探し線を結ぶ。時折、従業員が会話に入り込んで情報を引き出すこともあった。
これらの事実はあまり知られていない。桃瀬の下で働くもの達は皆一様に武人であり、義に厚い。自らよりも強く気高い桃瀬の門を叩き、自らの意思で仕えている。桃瀬は飲食店で情報を得ている事実を口外することを別段禁じてはいないが、不思議と誰も口にしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!