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柳林龍生(やなぎばやし・りゅうせい)は迷っていた。腕に抱えたいくつかの本を抱え直して、深くため息を漏らす。
迷子という訳では決してないが、道に迷っていた。
三叉路に立ち尽くし、右に進むか左に進むか。そんな簡単な二択が至極難題に思えた。いつもならば人通りが少なく近道となる右に進むことが多い。しかし何故か頭が警鐘を鳴らしている。こういう時は大抵、選んだ後で酷く後悔するのが龍生のジンクスだった。
そのジンクス通りにいけば、どちらを選んでも後悔はする。それは決定事項なのだ。しかし、出来れば後悔の少ない方を選びたい。そんな思考を巡らし、早くも一時間が経とうとしていた。
「……そうか、もと来た道を戻ろう」
目の前の三叉路は目的地にたどり着く為にどうしても通らなければならない道ではない。どんなに遠回りになったとしても、大回りで行けばいいのだと考え直し、龍生は晴れやかな気持ちで踵を返した。龍生を歓迎するかのように一筋の風が吹いて、道端に咲く桜の花びらを舞い散らせる。
小さな薄紅色の花片がひらひらと可愛らしく踊っていた。
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