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麗らかな春の陽射しと風に龍生は幸せを感じていた。だからこそ、目の前の出来事を見たくないとさえ考える。
睨み合う若い二人のチンピラ。キスするつもりなのではないかと思える程に顔を近づけ、がんを飛ばしあっていた。歩道のど真ん中でそんなことをしているせいで、街行く人達は二人を遠巻きに避けて自分に矛先が向かないようビクビクしながら通っていく。
中にはチンピラが視界に入らないようにそっぽを向いて歩いている人もいた。龍生は出来れば自分もそうしたいとため息を漏らす。
チンピラはどちらも黒い髪を脱色したり色染めしているのだろう。金髪と茶髪で色合いは異なるが、どちらも根本が黒く所謂プリン頭になっていた。
繰り返される脱色や毛染めでキューティクルは剥げ落ち、傷んだ髪はパサついている。なんて美しくない髪だろうか、と龍生が怪訝な顔を浮かべた。
「んだとゴルァ!」
突然、金髪のチンピラが奇声を上げて茶髪のチンピラの胸ぐらを掴む。茶髪もそれに応戦して胸ぐらを掴み返した。周囲に緊張が走り、チンピラの横を通り抜けようとした若い女性が短い悲鳴を上げる。
龍生は道を引き返したことをこの上なく後悔した。こうなるならば引き返さずに進んだ方が良かったのかも知れないと頭を抱える。
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