序章 ここで会ったが何年目?

8/15
前へ
/15ページ
次へ
「……ねぇ、ちょっと」 「あぁん?」  龍生がチンピラ達に声をかけると全く同じ表情でガンをつけられた。しかし龍生は動じることなく笑顔を浮かべる。  瞬間、チンピラ二人の顔色が急激に悪くなった。お互いに手を胸ぐらから離しうずくまりながら荒く息をする。しかし次第に呼吸が浅くなり、その場に倒れ込んでしまう。  驚きの表情で龍生が二人に近寄り確認すると、二人とも蒼白い顔で目が不自然に泳いでいた。  遠巻きに事の成り行きを見ていた雑踏の中から女性の叫び声が上がる。 「誰も近寄らないで!」  何人かの若い男が龍生たちに近寄ろうとした瞬間、龍生が声を張り上げた。龍生のただならぬ声に若い男たちは足を止めてどうしたものかと右往左往する。 「僕は柳林です! この二人に誰も近づかないでください。すぐに処置をします。そこの貴方、すみませんが救急車を呼んでください」  龍生が声を張り上げて柳林であると告げた瞬間、周囲に安堵が広がる。柳林とはこの国の医療全般を司る一家の名前であり、国の全ての病院は一つ残らず柳林の傘下だった。柳林は方針の違いから国の警護を司る桃瀬と最も折り合いが悪い。  どんな犯罪者も許さない桃瀬はどんな手段――それこそ被疑者が傷を負ってでも――を使っても犯人を上げる。それを反対しているのが柳林だった。  柳林はどんな人物相手でも分け隔てなく治療をして傷や病を治す。それは龍生も例外ではない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加