4 主

8/9
前へ
/28ページ
次へ
「まあいいよ、どっちでも。じゃあちょっと、もう一度ちゃんとみせて」 「……はい」  おろおろと落ちつかないティオに指示を出す。 「ティオ、消毒薬」 「えっ、どっち?」 「いつものほう」 「はい」  水のティオが出て行かないとわかったのか、普段通りの落ち着きを見せはじめる。 「白のティオ、君まさか労働をさせられて……」 「やらされてないよ、ぼくがイグノトルさまのお役に立ちたくて」  水のティオがほっと息をつく。ひどい誤解だが、心配してくれたのだろう。 「白のティオって呼ばれてたのかい」 「うん」  傷口を消毒し、包帯を巻きはじめる。 「一応は伸びる素材だけど、一角獣の姿にまでは対応しきれないから、やめたほうがいい」 「……はい」 「つまり、治るまで安全な場所にいたほうがいいんだけど、どうなのかな、そのあたりは」 「……大丈夫……です」 「主から逃げてるんじゃないのかい?」 「主は私の気持ちを知って、養育中に手放してくれたんです。私は自由に生きたかった」  保護しようと躍起になっているトリノ伯爵とは印象が重ならない。 「トリノさまが主じゃないのかい?」 「違います。外で苦労を重ねているうちに、それが間違いだと気づいた。ティオには天使の力が必要だった。主が与えてくれていたから、愚かな私は……、あって当たり前だと思っていた」 「戻らないの?」 「淡白な彼女を主だとは……どうしても思えなかった。そんなころ、トリノさまに出会ったんです。彼しかいないと思った。でも、彼は別のティオを養育中だったので、まさか主になってくれなんて言えなかった。でも、そのティオには秘密だと言って、力をわけてくださった。力が不足しているはぐれティオも、連れていけばトリノさまは力をわけてくださった。そうしているうちに群れができて、養育中だったティオが成人しても、私が群れをさしおいて彼のティオになることは……できなかった」 「今も、トリノさまに主になってほしいのかい?」  水のティオは何も答えなかった。 「そんなのつらいよう」  うぅ……、とティオが泣きだした。 「こらこら、君のことじゃないんだから泣かなくていいよ」 「それじゃ、失礼します」  イグノトルはふと机の上に視線をやり、医務室の鍵を手にとった。  ちりん、と鳴る金属の音に、水のティオがはっ、と動きをとめた。 「ああ、ごめん、びっくりさせて。外ではあんまり聞かない音だよね」 「……いえ」 「えー、このあたりにリューウェイにと思って置いてたんだけど、どこへやったかな」
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加