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「まあいいよ、どっちでも。じゃあちょっと、もう一度ちゃんとみせて」
「……はい」
おろおろと落ちつかないティオに指示を出す。
「ティオ、消毒薬」
「えっ、どっち?」
「いつものほう」
「はい」
水のティオが出て行かないとわかったのか、普段通りの落ち着きを見せはじめる。
「白のティオ、君まさか労働をさせられて……」
「やらされてないよ、ぼくがイグノトルさまのお役に立ちたくて」
水のティオがほっと息をつく。ひどい誤解だが、心配してくれたのだろう。
「白のティオって呼ばれてたのかい」
「うん」
傷口を消毒し、包帯を巻きはじめる。
「一応は伸びる素材だけど、一角獣の姿にまでは対応しきれないから、やめたほうがいい」
「……はい」
「つまり、治るまで安全な場所にいたほうがいいんだけど、どうなのかな、そのあたりは」
「……大丈夫……です」
「主から逃げてるんじゃないのかい?」
「主は私の気持ちを知って、養育中に手放してくれたんです。私は自由に生きたかった」
保護しようと躍起になっているトリノ伯爵とは印象が重ならない。
「トリノさまが主じゃないのかい?」
「違います。外で苦労を重ねているうちに、それが間違いだと気づいた。ティオには天使の力が必要だった。主が与えてくれていたから、愚かな私は……、あって当たり前だと思っていた」
「戻らないの?」
「淡白な彼女を主だとは……どうしても思えなかった。そんなころ、トリノさまに出会ったんです。彼しかいないと思った。でも、彼は別のティオを養育中だったので、まさか主になってくれなんて言えなかった。でも、そのティオには秘密だと言って、力をわけてくださった。力が不足しているはぐれティオも、連れていけばトリノさまは力をわけてくださった。そうしているうちに群れができて、養育中だったティオが成人しても、私が群れをさしおいて彼のティオになることは……できなかった」
「今も、トリノさまに主になってほしいのかい?」
水のティオは何も答えなかった。
「そんなのつらいよう」
うぅ……、とティオが泣きだした。
「こらこら、君のことじゃないんだから泣かなくていいよ」
「それじゃ、失礼します」
イグノトルはふと机の上に視線をやり、医務室の鍵を手にとった。
ちりん、と鳴る金属の音に、水のティオがはっ、と動きをとめた。
「ああ、ごめん、びっくりさせて。外ではあんまり聞かない音だよね」
「……いえ」
「えー、このあたりにリューウェイにと思って置いてたんだけど、どこへやったかな」
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