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プロローグ
0-1
庭木が初夏の色に包まれ、若葉の美しさに惹かれて自邸の庭を散策していたフユカ・トリノは、かさりかさり、と近づいてくる一角獣特有の足音に気づき、驚かせないよう、ゆっくりとそちらを見る。
鮮やかな水色のたてがみが目を引いた。
「水のティオ……」
警戒するように横顔をみせ、一定距離を置いて、止まった。
「ま、待っているのよ、いいわね?」
慌てちゃだめ、と自分に言いきかせ、フユカは屋敷へ入った。
「お父さまっ」
「どこだね、水のティオは」
「その辺りにいたんです」
「いないじゃないか」
「本当にいたのよ。ごめんなさい、わたしがもっと気をつけていれば」
「いや、いつものことだ。もう……行ってしまったんだな」
ちりん、と鈴の音がした。
「水のティオ」
トリノは音のする方向へ走った。
おびえたように後ずさる痩せた一角獣に気づき、足をとめる。
「おや、見ない子だ。水のティオの紹介だね」
ちりん、とくわえていた鈴を落とした。
「あの子は、元気なのかい」
そっと近づき、天使の力を与えた。
鈴をくわえなおし、一角獣は一度だけ首をさげ、緑の中へ消えていった。
「庭木が多いのも問題だが、見通しをよくすれば、来なくなるんだろうね」
「……ええ」
「もどかしいことだ」
トリノは、ティオたちが残していった足跡を見つめた。
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