1―②,静寂の撫子

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「っ!!」 「ん?何だ何だ?」 突然、目の前を元気に歩いていた鈴は体を震わせると、一目散に俺の影に隠れた。 前を見ると…… 「あら?蓮くんおはようございます」 淑やかな美少女が一人。 なるほど、そう言えば鈴にも弱点があったな。 「おはよ、摩周」 白い肌は淡雪のように美しく、背中を隠す程長い黒髪はまるで黒蜜を流したよう。 華奢な体格も相まって、触れると消えてしまいそうに儚い。 守ってあげたい女子の代表格であり、熱狂的なファンも多い。 鈴をも超える人気を誇る存在。 だが、その外見に騙されてはいけない。 座学成績1位、闘技場順位3位。 “静寂の撫子”の称号を持つ十傑の一員。 歴代学園生で10人もいない、全ての禁書の閲覧を許された者でもある。 正真正銘の化け物。それがこいつ―木田 摩周(きだ ましゅう)だ。 とにかく、座学は超優秀、戦闘技術もトップクラス、容姿も端麗。 『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』 なんて言葉は、きっとこいつの為にあるに違いない。 ただ1つ難を挙げるとしたら…… 「クンクン…鈴ちゃんの匂い!……見つけた!!ああ…愛しの鈴ちゃん、今日も麗しい!ぎゅうってさせて!!!」 「ひぁっ!?や…やめっ……嫌ー!!!」 『幼女を見ても百合の花』 ってところだろうか。イサゴ兄とは気が合いそうだ。 ……いや本当に、清楚な雰囲気とか全部台無しだよな。残念美人の枠を超越してヤバい奴だ。 まあ、こんな奴でも俺の親友であり、俺の親友の彼女でもある。 逮捕される前に止めてやらないとね。 鈴もそろそろマジ泣きしそうだし。 摩周は戦闘技術でも鈴より上だから、イサゴ兄みたいに実力で制裁することも出来ないのだ。 「あー、摩周?そろそろ放してやったらどうだ?」 「鈴ちゃん可愛いよぉ……ペロペロしちゃお♪」 「やめろー!!」 「鈴も嫌がってることだし……」 「ああ…鈴ちゃんのほっぺはなんでこんなにぷにぷになのかしら……!いつまでも頬擦りしていたいわ!!」 「あぁぁぁぇえぇぁぇぇ…」←超高速の頬擦りをされている 「潤んだ瞳…ふっくらした唇……はっ!いけない、危うく理性が飛ぶところだったわ!!」 「まだ飛んでなかったの!?」 「…」←生ける屍 「あ、チャイム…」 「えっ?もうそんな時間!?鈴ちゃん、また遊ぼうね♪」 「…」←生ける屍 摩周は動かなくなった鈴を俺に預けると、名残惜しそうに去っていった。
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