透明

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「今日は私も帰るよ。一緒に帰ろっ」 両手を広げ、くるりとふた回り程しながら出口へと向かう。 振り回した手を壁にぶつけて「あでッ」とおかしな声が出て、手を摩る。 そんな姿を静かに笑う虹々ちゃんに私は苦笑を浮かべる。 美術部員さんが来るのを少しだけ期待したけど結局誰一人来はしなかった。 下駄箱で靴に履き替えて、綺麗に並べられたレンガの並木道を並んで歩く。 もうすぐそこがバス停だ。 「そういえばさ、彩乃って本が好きなの?」 「んー、読むけど本の虫って程じゃないよ。どうして?」 他愛ない話にしては突拍子もない話題に疑問符が浮かぶ。 「だって〝私を今ここで女でなくしておくれ〟ってシェイクスピア作品の引用でしょう?」 「うん、シェイクスピアのマクベス」 流石虹々ちゃんだなあ。 読んだことある作品だったのかな。 そこから本の話をして、バス停でお別れした。 虹々ちゃんは徒歩通学。 私もそこまで遠くないし歩いて行こうかと考えたけど今日は止めておいた。 心地よく揺れるバスから覗く空は青ではなくて灰色だった。 雨降らなかったなぁ。
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