透明

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自分の中で、天秤が今日。傾いたんだ。 日に日に積もる絵への興味が脳内を埋め尽くす程に。 きっと、今美術室入らなかったら、お風呂に入ってる間に悶々とするんだろうなあ。 私はやらぬ後悔はしないというのを信念に決めている。 よしっ。 「〝私を今ここで女でなくしておくれ〟」 誰に言うでもなく、強いて言うならば自分に言い聞かせて深く息を吸い込む。 目を閉じて。 空気が肺に溜まってく。 暖かな空気だ、別に澄んではいないけど。 「ふう。行こう」 何が石の門だ。何が羅生門だ。 こんなのただのスライドドアじゃないか。 右手をスッと伸ばしてドアに手を掛け、ゆっくりと開けた。 ガラガラと音を鳴らして、一歩踏み出せば。 絵の具のシンナーの香りが仄かに香る。 換気が定期的にされているのだろう、美術室臭くない。 右側にズラッと並んでる石膏の顔達に驚きを覚えつつも、新鮮な美術室。 真っ白の机に木製のイス。 美術部員のキャンバスなのだろうか、壁に綺麗に立て掛けてある。 イーゼルが所々に置いてあり、ここで書いているんだろうなあ、そう思った。
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