109人が本棚に入れています
本棚に追加
思いっきり突き飛ばされて、後に転びかけた王子は、何とか体勢を保ったが、料理見習いごときに拒絶され、さすがに自尊心を傷つけられたようだ。
「貴様……この俺にこんなことをして、ただですむと思って……」
震え声で言いかけたときだった。
レントシエラは背後の茂みに、鋭い気配を感じ取った。
殺気だ。王子を狙っている。
生まれつきの鋭い感覚でそう察知すると同時に、純粋な反射で体が動いていた。
前触れなく振り下ろされてきた剣を、タンと横っとびに飛んで、両手のひらで挟み王子の前で受け止めた。
切っ先が王子に切りつける寸前だった。
「うわ、なんだ? くそっ」
黒ずくめの刺客がレントシエラのあまりの素早さに奇声を上げ、そのまま剣を捨てて暗がりに逃げ込んだ。
レントシエラは両手で握っていた剣を地面に放り出し、王子の無事を確認するために振り返った。
ディナフェル王子は辛うじて剣の束(つか)に手をやったまま、抜くことさえできずに、ただ呆然と立ち尽くしていた。
最初のコメントを投稿しよう!