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「誰だ? そこにいるのは」
気付かれた。気配を消していたつもりなのに。
長いマントを羽織り、腰に剣を下げた背の高い人物が、じっとこちらを見降ろしていた。
(あれは──ディナフェル・コルドノア?)
レントは思わず身構えた。
コルドノア国の第一王子だ。
この男に近づくため、レントはルジェー城に潜入したのだった。
その標的が今、目の前にいる。
しかも、仲間を捕らえた敵の王子。
夜。尖塔が立ち並ぶいかめしい石造りの王城を中天の月が青く照らしていた。
その王城を囲む、石を積み上げた城壁の上、見張り台の一つにディナフェル王子が寄りかかって立っている。
レントは、その見張り台から数段の石段を下がった裏庭の通路にいた。
今の彼はどこから見ても、城中にいくらでもいる下働きの少年にしか見えないはず。
大丈夫だ。そう覚悟を決め、できるだけ何気ない風を装って、隠れていた物陰から出ると、王子の立つ見張り台へと近づいて行った。
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