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王子のすぐ近くまで来ると、レントはさっと膝を折って地面に着き、身を低くして頭を下げる。
「王子様……、あ、あの、私は、料理見習いの、レントと申します」
王子と出会った時のために、ぬかりなく準備しておいた返答であるはずなのに、体が震えうまく答えられない。
「料理見習い? 料理見習いが、こんな時間にこんな所で何をしているんだ」
ますますいぶかしそうに聞きながら、ディナフェル王子はゆっくりとした足取りで見張り台から石の階段を下りて来た。
月の光を背後にして、王子の長い前髪が白金色に透き通っている。
一瞬だが、レントは王子に見とれてしまった。
間近で見るディナフェル王子は、細身で背が高く、金の髪によく映える深い紫の瞳をしていた。
まるで洞窟の最奥に眠る、紫水晶のような瞳。
だが今は、相手の容姿に見とれている場合ではなかった。
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