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結樹がショックを受けて黙ってしまっている時に、白髪の女性はあることに気付いた。
「そういえば、まだ互いの名前を言っていなかったね。私の名前はローエ。ローエ=シュアインだ」
ローエは自分の鎖骨部分に手をかざしながら名前を告げた。
だが、異世界に迷い込んでしまったショックを受けている最中の結樹は反応ができなかった。
「……どうかしたか? 今度は君が名前を教える番だよ」
「! あ、うん……。結樹、神坂結樹」
結樹はそこでようやく言葉を返せた。
言い終えた後に、ローエが外人名だったので苗字と名前を逆に言うべきだったと思った。
「カンザカ=ユーキ? 聞き慣れない語感だ。まぁいいか。ユーキと呼べば良さそうだね」
でもローエはそこには気付かなかったようで安心した。
その後、二人はほとんどお互い無言で森の中を進んでいた。
理由は結樹がショックを受けていて、そっちに思考が持ってかれていたからである。
どうやったら帰れるのか、出席日数不足で留年とかしないかなとか、両親にはどうすれば平気だって連絡できるかなとか。
結樹はそんな考えで頭一杯だったのだ。
ローエは詳しいところまでは分からずとも、結樹の表情から察して話しかけずにいた。
結果的にこの沈黙のお陰で、他のモンスターに出逢わずに済んだのかもしれない。
「森を抜けるぞ」
ローエがそう言い放った直後、木々によってある程度遮られていた太陽の光が一気に視界に降り注ぐ。
結樹には不意打ちだったので思わず目を瞑り、腕で光を遮らせた。
「うわぁ……っ!」
でも数秒経つことで、結樹の瞳孔もこの光の強さにも順応し腕をどけて目を開けても平気になった。
そして視界に広がる光景を見た結樹は、つい声を漏らしたのだ。
地平線まで広がる、あまりにも広大な草原。
日本──どころか外国でもお目にかかれなさそうな緑一面の光景に、結樹はさっきまでのショックを忘れて見入ってしまったいたのだ。
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