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とりあえず何処かも分からない森の中で遭難しているという状況下で、黙って座っているという選択肢は結樹にはないらしく、
今は森の中を一人、歩いていた。
「まるで富士の樹海に迷った気分だよ……」
実際は、迷ったどころかか行ったことすらない結樹だが、それが今の彼の気分を納得させるのに一番ピッタリな例えだ。
草木を踏み、押しのける音が響いているが、好き勝手に変えている草木の間を無理やり進んでいるので、音が出るのは避けられない。
だらこそ、彼が青いジーンズの長スボンをはいているのは幸運だった。
もしズボンの裾が短かったら、歩く度に草の先端がチクチク刺さってマトモに歩けなかっただろう。
「……何とかして、出ないと飢え死にしちゃうぅ……」
とはいえ何の当てもなく歩き回っている時点で、彼は不安と恐怖に押し潰れそうになっていた。
「ハァ……どうしてこんなことに……」
結樹は溜め息をすることで、弱っている心を誤魔化す。
だが、それももう6回目になっていた。
……………。
「……ん?」
森林を歩いて2時間。
何処まで歩いても木々しか見えなかった視界の奥が、僅かに開けているのに、彼は気付いた。
結樹は出口だと考え、歩く速度を上げて近付いていった。
結果を言えば、出口などではなかったのだが。
まるで、そこだけ徹底的な伐採が行われたかのような場所だった。
木々だけでなく、そこには背の高い雑草もほとんど生えていなかった。
「人の手が入ってんのかな? ……って、何だろアレ?」
台風の目のような森林の穴。
そこに到着した結樹は、そう呟きつつ、キョロキョロと見渡していると『あるモノ』を発見した。
「んー……っと、もしかして───」
初めはただの石かと思っていた結樹だが、歩み寄って行くう内にその正体がだんだんと分かっていった。
きちんと削られた石が積み上げられ、言語のようなものが彫られているそれは、
どう見ても、墓石だった。
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