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森の中で好き勝手に伸びている雑草たちを掻き分け、踏み倒しながら結樹は必死に足を前へと進めていた。
「……っ! はあっ……はあ!」
草木の中を進むという経験が今までに全く無かった結樹と、この森を根城として生きてきたであろう狼人間の距離は、どんどん、どんどんと縮んでいく。
(た、ただでさえ、何処だか分からない場所に居るってだけでテンパってたのに、明らかに僕を食べる気満々の未知の猛獣に遭遇とかツイてなさすぎだああああああ!! これ僕死ぬの!? まだ15年半しか生きてないのに、お陀仏!!?)
結樹は心の中で悲鳴を叫び散らしながら、全力逃走を続けた。
───だが、
「あ! うわああ!!」
彼の右足が雑草に紛れて見えづらくなっていた木の根に当たり、ムシャクシャになって走っていた結樹はバランスを崩してしまった。
そのまま地面へと大きくスっ転んでしまう。
「わっ、わあああああ!!! く、来るなあああああああ!!!」
もう逃げれないと即座に察した結樹は完全にパニックに陥ってしまい、身体を反転させて狼人間の方に向けて大声を上げた。
だが既に50メートルも切った距離にいる狼人間は一切スピードを緩めず、結樹に迫ってくる。
どちらかというと「ようやく飯にありつけるぜ」と言いたそうな笑みを浮かべているように結樹には見えた。
「い、いやいや! 狼人間さん、僕ぜんっぜん美味くないよ!! ガリガリだから腹の足しにもならないから! むしろお腹壊すよ!! だから食べないでええええええ!!」
必死に懇願しつつ手足をじたばた動かす結樹だが、狼人間は躊躇いなく結樹の目の前へと到着した。
そして左手を大きく振りかぶる。その指先には人肉なんて簡単に引き裂けそうな鈍い光を反射する鋭利な爪があるのが分かった。
死にたくない、と強く思ってはいても……あぁ、僕死んだなぁと結樹は理解していた。
(せめて女の子と劇的な出会いをして、恋人くらいは欲しかったなぁ……)
結樹は遂に諦め、目を瞑った次の瞬間、
鋭利な刃物が肉を切り裂く大きな音が、辺りに響き渡った。
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