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結樹は痛みを感じなかった。
しかし怪我というのは直ぐに痛覚を感じない物だと分かっていた結樹は、血だらけになって無残な状態になっているであろう自分を見たくなかったからか目を開けたりはしなかった。
せめて、痛みを感じる前に殺して欲しい……。
「何、ボーッとしてるんだ! 早く下がって!!」
と結樹が考えたのとほぼ同時に、別の声が耳に響き渡った。
突然の想定外の声に結樹は驚き、慌てて目を開ける。
すると目の前に居て、結樹を殺しかけていた狼人間の……左腕が、丸々なくなっていた。
一瞬、視界の左端に光る何かが見えたので、首を左の方へと動かす。
そこには刃渡りの長い銀色の刃物を握った純白色の髪をした女性が立っていた。
腰まで降ろした美しいロングヘアー。
凛々しさと優しさを感じさせる丹精な横顔。
空の様な明るい青を基調とした服の上からでも分かる、女性らしい美しいくびれを持ったスタイル。
状況が状況だというのに、場違いな程に美しかった彼女の姿に、結樹は思わず我を忘れて見惚れてしまった。
「下がってと言ってる! 聞こえてるんだろう!?」
そんな結樹に再び純白髪の女性が命令する。
やっと我に返った結樹は慌てて後ろへと下がった。
それによってようやく、純白髪の女性は剣を構えなおすことが出来た。
狼人間も左腕を失ったショックから立ち直ったらしく、女性を睨みつつ右手を構える。
その状態で、まるで時が止まったかのように静寂した。
静かだが、緊張状態は続いている。
さながら剣道の試合のようだった。
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