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「グオオオオオオ!!」
先に動いたのは狼人間の方だ。
もっとも、彼(?)は左腕を切断されて血が止めどなく出ている状態だから、時間なんてかけていられないのだ。
狼人間は残った右腕を突きのように真っ直ぐ伸ばしながら、白髪の女性に迫っていく。
あれで腹部を貫かれれば、大ぶりな振りおろしに比べれば即死にはならないものの致命傷には変わりない。
だから、結樹は「危ない!」と叫ぼうと口を開いた。
……が、その口から声が出ることはなかった。
何故ならば彼が叫ぶ前に、狼人間は白髪の女性によって右腕と首がほぼ同時に斬り飛ばされていたからだ。
彼女はたった一太刀、一瞬の動作で達成させたのだ。
「あ……」
結樹はつい声を漏らしてしまった。
目の前では残虐な殺戮が行われたというのに、彼は彼女の一動を美しいと感じてしまったからだ。
「……ふぅ」
白髪の女性は一息つくと、二の腕まである長い手袋を片方だけ外して、剣に着いた血を指で拭ってから、腰に付けている鞘に納めた。
──そして、結樹の方を睨みつけた。
そのまま結樹へと力強く地面を踏みつけながら近寄る。
誰がどう見ても怒り心頭だと分かる。
「君、どうして武器も持たずに人地圏から出た!? 私がたまたま通りがからなかったら、死んでいたんだぞ!!」
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