第四章

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 加賀見君と私が付き合っていたというのは、皆さんご存じでしたよね?  私と加賀見君は中学が一緒でした。その頃の加賀見君は、女の子が大好きではありましたけど、誰でも付き合うというようなことはありませんでした。    私が美術部で一人で絵を描いている時に、彼は現れました。 「あー、水谷夏乃ちゃん!」 「名前……?」 「俺同学年の女子は全員覚えてんの! 1、2年は三分の二くらいかな~。すごくね!?」  ……すごくチャラかったです。  それは今もですけど。 「こんなところにどうしたの? 先生に用事?」 「んーん。俺絵見るの好きなんだよね~! 描いてる人見るのも好き!」 「そうなんだ」 「見ててもいいー?」  嫌でした。集中出来ません。  でもあまりに無邪気に言うので、ついつい頷いてしまいました。それから加賀見君は、ちょくちょく美術室に来るようになりました。  ◇ 「俺の従兄が絵描くの好きでさ。その人めっちゃ明るいんだけど、やっぱ鮮やかな絵描くんだよねー」 「加賀見君は描かないの?」 「俺、才能皆無だから。見る? 俺の授業中の作品」  ……そう言って私に見せてくれたスケッチブックに描かれていたのは、小学生の落書きのようでした。  ◇ 「夏乃の絵って優しい色合いだよね。性格出てる!」 「優しいっていうか……。薄いだけだよ。自信がないから鮮やかな色がのせられないの」 「んー? それがいんじゃねぇの? 控え目だけど……ほら、こことか。ちゃんと必要なとこは深い色塗ってんじゃん。……な? 夏乃みたいだろ?」  いつも無邪気に笑う彼に惹かれていきました。そして三年生の二学期頃、告白されて付き合い始めました。
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