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俺の名前は橘右京。
まるで芸術家か小説家、芸能人みたいな名前だが、そんな特技はない。それどころか、人付き合いが苦手で友達も少ない暗い奴だ。
高校二年生になるというのに、緊張せずに普通に話せる友人が学校で数人しかいないっていうのは、我ながらどうかと思う。
「右京ー! お昼食べよー!」
昼休み、俺が一人で食堂に行こうと教室を出ると、離れたところから声をかけられた。それは俺が最も見知った声だ。
「わっ…左京君だ! 可愛い…!」
「橘兄弟揃ってんじゃん」
「同じ顔なのに雰囲気全然似てないよね」
こそこそとした話し声、黄色い歓声、無遠慮な視線を諸ともせずに俺に近づいてきたのは、俺と同じ顔。しかしいつも笑顔で柔らかい雰囲気である彼は、一目で俺と別人であるとわかる。
双子の弟、橘左京だ。
根暗な俺とは正反対の明るい雰囲気。同じはずなのになぜか可愛く見えてしまう顔。いつも笑顔で、友達も多い。そんな左京が、新しいクラスに馴染めずに一人で昼食をとる俺を心配して、わざわざ友達の誘いを断って俺のところに来てくれることが申し訳ない。
「左京……。俺に気を使わなくていいから。クラスの友達と食べなよ」
「いいの。今日は右京と食べるって決めてるから!」
そして、すごく優しい。
こちらが心配になるほど。
左京は俺の手をとって食堂の方に進み始める。
俺がここで強くやめろと言えば、きっとクラスに戻るだろう。でも、絶対泣きそうな顔するんだ。その顔を見るのが嫌で、俺は結局溜息を一つ吐いて、左京と一緒に食堂に向かった。
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