第二章

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 俺の名前は橘左京。  俺は兄がいつも心配だった。  双子の片割れ。  恥ずかしがり屋で、いつも下を向いて。人が好きなのに、その中には入っていけなくて。  そんな右京が初めて好きになった人だから、俺はその初恋を実らせたかった。  夏乃さんも右京が好きだ。不器用な右京のことを理解してくれて、微笑んでくれる。この人なら、右京を幸せにしてくれる。  キューピットさん……葛城先輩に依頼したのは、そんな気持ちからだった。自分も夏乃さんに惹かれていることはわかっていたけど、誰より大切な右京に幸せになってほしかった。   それなのに、なぜか葛城先輩は、右京を助手にして俺と夏乃さんを両想いにした。   右京の初恋を実らせることができなかったどころか、それを駄目にしたのは俺の気持ちの所為だなんて。罪悪感で沈む俺を救い上げたのは、右京の笑顔だった。  あの日、日が暮れてから帰ってきた右京にかける言葉が思いつかず、「おかえり」としか言えなかった。  すると、右京はぱっと俺に抱きつき、「よかったな! 左京……っ」と笑った。  右京は決して表情に乏しいわけじゃないけど、こんな風に、晴れやかに笑うことは珍しい。  目は少し充血していて、泣いたことがわかった。泣いてたのに、こうして笑ってくれる。それが、俺には何より嬉しく、愛しさを心から感じさせた。  葛城先輩がこの笑顔をくれたのか。  やっぱり、あの人と右京は似てると思う。  ──ただ、少し不安がある。  葛城先輩は、右京をどう思っているのだろうか。何を思って、右京の近くにいることにしたのだろうか。
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