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「それは顔がいい奴だけだろ」
「は? お前がそれ言う? 左京と同じ顔してるくせに。その前髪を切れ!」
「嫌だ!」
「隠すな! もったいねぇ!」
表情は全く違うけど、それだけでは一目で一卵性の双子の俺達を見分けることはできないだろう。けれど一目でわかると言ったのは、俺達には髪型が違うという誰でもわかる外見の違いがあるからだった。
俺の前髪は長い。
不自然に長いわけじゃないけど、表情がわかりにくいくらいには。赤面するところを見られるのが恥ずかしいから。
「ちゃんとすりゃ、左京と同じくらいにはモテるぞ? きっと」
「いいよ、別に。それに、いくら同じ顔でも、左京と同じくらいにモテるなんてあるわけないだろ。左京は超絶性格いいんだから」
「それは俺も認めるけど……。でもほら、右京のが頭いいじゃん?」
「頭いい奴がモテるなら、加賀見がモテるのおかしいじゃん」
「ん? なんか超失礼なこと言わなかったか?」
加賀見の言ったとおり、成績は俺の方がいい。友達がいない分、休み時間や家でも遊ぶことなく勉強してるから。
我ながらなんて暗い……。
「右京は性格も可愛いのに」
「そう思ってるのは左京だけだ」
「俺も思ってるよ!」
「あっそ」
そんなことをぎゃぁぎゃぁと話している時だった。
ふと、視線を感じた。
いつもの、あの左京といるときのような華やいだ視線ではない。もっと、じっくり眺められているような……。
「右京? どうしたの?」
急に黙った俺に、左京が首を傾げた。
きっと気のせいだと思い、なんでもない、と言おうとした時、俺と向かいに座る左京の後ろに、その人は現れた。
「こんにちは。橘兄弟だっけ?」
明るい茶髪に二重で、猫のような印象を受けるややつり目の大きな瞳。加賀見と同じくらいの身長。誰が見てもカッコいい部類に入る男。
「どっちが左京君?」
左京が振り返る。
「僕です」
その男は左京を見てにっこりと笑った。
「こっちか。噂どおり、可愛い顔してるね」
噂どおり……。この学校に噂でしか左京を知らない奴なんていたのか。俺はそれに驚いた。
「あんた……」
今まで黙っていた加賀見が急に叫んだ。
「キューピットさん!!」
食堂にいた全員が唖然としたのは言うまでもない。
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