第二章

38/43

840人が本棚に入れています
本棚に追加
/405ページ
「早かったね」  そう言って屋上に上がってくるキューピットさんの後ろから、櫻野先輩が顔を出す。  すでに夏の日差しになって照りつける光に目を細め、口元には微かに笑顔を浮かべて。 「ごめん。右京君、加賀見君、時間をとらせて」 「いえ……」  俺が答えたとき、ちょうど少し強い風が吹いて、俺の前髪を散らした。 「あぁ、本当に左京君とそっくりなんだね」  ぽつりと先輩が言って、俺ははっとした。  叶わない好きな人と同じ顔。もしかしたら、俺の存在自体、先輩を辛い気持ちにさせるのではないだろうか。  思わず、先輩から目を逸らして下を向いた。  その時、かちゃりと音がした。  キューピットさんが屋上のドアの鍵を閉めたのだ。 「ありがとう、葛城」  先輩は、キューピットさんの方を向いた。その視線を追いかけて、俺もキューピットさんを見る。  一瞬、目が合う。その瞳が、「下を向く必要はない」と言っているように思えて、俺は正面を向いた。 「先輩、左京のことが好きなんすよね?」 「そうだよ」  加賀見が無遠慮に聞いても、何も躊躇わずに先輩は答えた。
/405ページ

最初のコメントを投稿しよう!

840人が本棚に入れています
本棚に追加