840人が本棚に入れています
本棚に追加
/405ページ
「早かったね」
そう言って屋上に上がってくるキューピットさんの後ろから、櫻野先輩が顔を出す。
すでに夏の日差しになって照りつける光に目を細め、口元には微かに笑顔を浮かべて。
「ごめん。右京君、加賀見君、時間をとらせて」
「いえ……」
俺が答えたとき、ちょうど少し強い風が吹いて、俺の前髪を散らした。
「あぁ、本当に左京君とそっくりなんだね」
ぽつりと先輩が言って、俺ははっとした。
叶わない好きな人と同じ顔。もしかしたら、俺の存在自体、先輩を辛い気持ちにさせるのではないだろうか。
思わず、先輩から目を逸らして下を向いた。
その時、かちゃりと音がした。
キューピットさんが屋上のドアの鍵を閉めたのだ。
「ありがとう、葛城」
先輩は、キューピットさんの方を向いた。その視線を追いかけて、俺もキューピットさんを見る。
一瞬、目が合う。その瞳が、「下を向く必要はない」と言っているように思えて、俺は正面を向いた。
「先輩、左京のことが好きなんすよね?」
「そうだよ」
加賀見が無遠慮に聞いても、何も躊躇わずに先輩は答えた。
最初のコメントを投稿しよう!